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第40回日本分子生物学会年会 ConBio2017 フォーラムのご報告
クライオ電子顕微鏡で見る繊毛の構造としくみ
〜 クライオ電子顕微鏡で何が見えるのか? 〜

Structure and functions of cilia observed by cryo-electron microscopy
〜 What can we “see” by cryo-electron microscopy ? 〜

2017年12月6日(水)、第40回日本分子生物学会年会において、綜合画像研究支援が企画しましたフォーラムを以下のように開催しましたので報告します。

演  者 吉川 雅英(きっかわ まさひで)東京大学大学院医学系研究科 教授
日  時 2017年12月6日(水曜日)18:45〜20:15
会  場 第24会場 (神戸商工会議所 3F 神商ホールA)
オーガナイザー 川本 進(認定NPO法人綜合画像研究支援 理事/
千葉大学真菌医学研究センター 客員教授・横浜市大医学部 客員教授)
登田 隆(広島大学大学院先端物質科学研究科 教授)

吉川雅英教授(東京大学)は最先端の電子顕微鏡技術(特にクライオ電顕)を駆使して、繊毛の構造としくみについて長年研究に取組まれ、これまで国際的にも注目度の高い大きな成果を次々と発表してこられた。ちなみに本フォーラムの中心となったクライオ電顕については、その理論構築・技術開発・実用化に貢献した3人の研究者(リチャード・ヘンダーソン、ジャック・デユポシェ、ヨアヒム・フランク)に、2017年のノーベル化学賞が授与された。その意味からも本フォーラムはタイムリーな企画となり、開始が夜の7時前にもかかわらず、会場には熱心な聴衆が集まった。

吉川教授はまず物を観るー顕微鏡技術発展の歴史から話を始め、最新のクライオ電顕技術の紹介、さらにこれからの展望についてまで、平明な語り口で説明された。その中で、10月にノーベル化学賞が発表されたまさにその日に、英国レスターで行われていた国際学会に、今回の受賞者の一人であるリチャード・ヘンダーソン博士が参加されており、スエーデンからの受賞告知の電話の瞬間に立ち会ったというヴィヴィッドな体験を紹介され、聴衆の注目を一気に集めた。それに続いて、ご自身の研究の全体的な俯瞰から最新の研究成果の紹介へと進まれた。

真核生物の繊毛・鞭毛は「プロペラ」や「アンテナ」として働く細胞内小器官で、ヒト疾患(繊毛病、Ciliopathyと総称される)との関連から、基礎科学のみならず、医学的見地からも非常に高い注目を集めている。吉川博士の研究手法は、自ら『構造遺伝学』と呼ばれているように、単に繊毛構造の高感度観察にとどまらず、クラミドモナス(単細胞の緑藻)、ゼブラフィッシュ、マウスを使って、構造学と遺伝学を融合させた新しいものである。数々の最新の結果(未発表データ含めて)を次々に紹介されたが、その中で特に繊毛の「剛にして柔」という一見、相反する二つの性質を決定している新規分子の同定と解析の部分は、本講演の白眉であった。吉川博士はRulerとEnforcement Factorと呼ぶタンパク質複合体を発見され、それらが繊毛の規則正しい美しい構造を形作り(Ruler)、繊毛を湾曲させ、損傷させようとする外界からの力に対して柔軟に拮抗していける(Enforcement Factor)という最新の結果を紹介して、講演を締められた。

講演後の質疑応答コーナーでは、聴衆から多数の質問がなされ、吉川博士はその一つ一つに対して丁寧な回答をされた。我々世話人も本講演に魅了された聴衆であり、印象深い、感動さえも覚える講演会を企画することができ、高揚した幸福な気分の中で今年度のフォーラムを終えることができた。更には、本学会、「2017年度生命科学系学会合同年次大会(ConBio2017)」開催を特集した「科学新聞(第3657号、2017年12月1日、科学新聞社)」に、本フォーラムが取り上げられ、その紹介が掲載されたことは、オーガナイズした世話人として大変嬉しいことでもあった。

プログラム

18:45〜18:50 趣旨説明
川本 進(認定NPO法人綜合画像研究支援・千葉大学・横浜市立大学)
18:50〜19:50 クライオ電子顕微鏡で見る繊毛の構造としくみ
〜 クライオ電子顕微鏡で何が見えるのか? 〜
吉川 雅英(東京大学大学院医学系研究科 教授)
19:50〜20:00 総合討論とまとめ
登田 隆(広島大学大学院先端物質科学研究科)

講演される東京大学大学院医学系研究科 吉川 雅英 教授

参加者からいただいた感想

沖縄科学技術大学院大学(OIST) 研究支援ディビジョン 研究担当ディーンオフィス研究リソースマネージャー & イメージングセクション リーダー(兼務) 島貫瑞樹先生

フォーラムに参加して

今年度は、クライオ電子顕微鏡技術の開発者にノーベル化学賞が授与され、クライオ電顕によるタンパク質構造解析研究という分野の発展を象徴するようでした。私の所属する沖縄科学技術大学院大学(OIST)にも、同分野の先生方と施設があり、9月から日本医療研究開発機構(AMED)の創薬等先端技術支援プラットフォーム(BINDS)に参画しています。私はOISTの研究支援部門でこの体制整備を担当する立場から、クライオ電顕をもっと勉強しようと、関連のシンポジウムやワークショップにせっせと通っていました。今年の分子生物学会年会はConBio2017で、そこでもプログラムに関連の講演を探して、クライオ電顕関連のワークショップや、東京大学の吉川雅英先生のご講演を見つけました。

座長に大隅正子先生のお名前がなかったので、迂闊なことに、これが綜合画像研究支援主催のフォーラムであることを見落としていて、今回の座長の一人の登田隆先生とポスター会場で話して気づきました。綜合画像研究支援主催のフォーラムではいつも、研究テーマの面白さや成果の重要性だけでなく、生命科学上の問題に切り込む手法としての最先端のイメージング技術(可視化技術)の有用性や、その技術の位置付けや可能性まで学べる講演の企画がなされているので、今回も夕方の時間枠でしたが、いそいそと会場に向かいました。

吉川先生のご講演が始まり、最初に、クライオ電顕技術について、生き物に必須な「水」を電子顕微鏡に持ち込んだもの、と端的に説明されたのが、非常に示唆に富んでいて、いろいろなイメージをかきたてられ、印象的でした。続いてクライオ電顕を用いた研究手法の種類と、それらを用いた研究の世界情勢、技術的なブレイクスルーの鍵となった電子直接検出カメラと位相板の開発についての説明があり、クライオ電顕技術が今どういう意義を持ち、生命科学のトレンドと日本の学術研究の中でどのような位置付けにあるかが良くわかりました。

それから、吉川先生ご自身の研究、すなわち、クラミドモナスをモデル生物として用いて、鞭毛・繊毛の構造としくみをクライオ電子線トモグラフィーの手法を利用して解き明かす研究の内容の説明がありました。その中では、9+2の微小管配置の基本構造をもつ鞭毛の3次元解析の情報をもとに、微小管以外の鞭毛構成部品タンパク質の役割について鞭毛の構造と機能の根拠から仮説を立て、遺伝学的手法と生化学的な手法を組み合わせてその部品を特定、さらに標識をして、それを含む鞭毛の構造をもう一度クライオ電顕で解析することによって、仮説を検証し、その仕組を解いていく過程が示されました。微小管の上に規則正しく並ぶ他のタンパク質の配置を決める「物差し」の役割をするタンパク質の機能や、鞭毛の微小管の安定性に寄与する「補強」のタンパク質など、ひとつひとつ、何を問題として、どういう仮説から、どういう検証をして、どういう結論を導いたか、理路整然と展開されました。それらの機能に関連する繊毛の病気なども紹介され、生命科学上の重要性も理解することができました。また、クライオ電顕という時間を止めた観察手法とは相補的となる可視化技術である、高速AFM(原子間力顕微鏡)を用いた微小管の安定性の検証実験なども組み合わせて、解くべき問題に自在に取り組んでいく迫力に圧倒されました。

最後には、東京大学のクライオ電顕施設の紹介と、日本の生命科学コミュニティにおけるクライオ電顕技術の普及と強化のための施設ネットワークや支援体制の紹介がされました。競争し切磋琢磨しながら協力連携も進め、構造解析を軸とした生命科学の一分野を主導する吉川先生の自負と責任感が感じられました。OISTもその一端に真に貢献できるようになるため、内外の関連の先生方のご指導を賜りながら、裏方の我が身の微力を尽くさねばと、引き締まる思いでした。

大阪大学大学院医学系研究科  村井稔幸先生

フォーラムに参加して

「クライオ電子顕微鏡で見る繊毛の構造としくみ 〜 クライオ電子顕微鏡で何が見えるのか? 〜」と題した、第40回日本分子生物学会年会 ConBio2017 フォーラムに参加しました。

東京大学の吉川雅英先生のご講演では、はじめに、クライオ電子顕微鏡法で何ができるのかについてわかりやすくご説明いただきました。クライオ電子顕微鏡法による3種類の解析法の概説に加えて、最近のmicroED(micro-electron diffraction)の利点を比較しながら解説していただき、大変勉強になりました。先生は、クライオ電子顕微鏡法が開発されてからの努力と技術の積み重ねが大事であって、それが現在の同法の発展につながったことを力説されました。つまり、電界放射型電子銃や安定なクライオステージなどが開発され、その上で、最後に決め手になったのはdirect electron detectorの開発であったことです。さらにもうひとつ、この2年ほどで位相板がクライオ電子顕微鏡法に導入されるようになり、非常に小さい分子の構造が高解像度で解析できるようになった例をご紹介くださいました。あわせて、世界におけるこの分野の日本の地位が少し遅れてきていることに触れられ、吉川先生が中心となって技術支援基盤をつくられるなど、この事態に対して懸命に努力をされている現状をお伺いできました。

次に、吉川先生のご研究成果をご紹介いただきました。cilia/flagellaのおもにクライオ電子線トモグラフィー法を用いたご研究内容でした。cilia/flagella内のaxomeneの基本構造はChlamydomonasなどの単細胞生物からヒトまで保存されており、「9+2構造」と呼ばれています。その構造の中で、radial spokeに見られる96 nmの周期構造を生み出す「物差し」となるFAP59/FAP172複合体を同定したことをはじめとして、構造生物学と遺伝学を組み合わせることにより未解決重要問題を解き明かす手法に感銘を受けました。また、beatingにより微小管が壊れない仕組みについて、クライオ電子顕微鏡を用いて責任分子を同定し、その機能を別の顕微鏡を用いて証明されました。さらに、ゲノム編集やモデル生物を駆使したり、FIB-SEMを薄膜作製に使用して細胞内構造を高解像度に観察する手法など、まさに努力と技術の積み重ねの継続がこの分野の発展に繋がることをお示しされました。ヒトではciliopathyという疾患概念が提唱されており、先生のご研究成果を拝聴して、現代の「解剖学」はここまで進んだのかとあらためて目を見張る思いをしました。

ご講演の後にはフロアから熱心な質問が相次ぎ、電子顕微鏡技術とそれを用いた研究の最先端を学べた大変貴重な機会となりました。本フォーラムを通じて、可視化科学・技術の継承と発展により日本の生命科学と科学技術の発展に貢献するということの重要性を改めて実感しました。ご講演いただきました吉川先生、そして、このような素晴らしいフォーラムを開催していただきましたオーガナイザーの川本進先生と登田隆先生、IIRS理事長の大隅正子先生に心より感謝申し上げます。

IIRS大隅正子

年会フォーラムを終えて

10月3日に今年のノーベル化学賞の発表があった時に、直ぐに登田先生から「ノーベル化学賞のCryo EMは、非常に嬉しいニュースですね、分子生物学会年会フォーラムでの、吉川先生の講演がさらにタイムリーなものになりました」とのメールを頂き、私と同様に、登田先生も感激しておられるのを、嬉しく思いました。昨年のフォーラムの直後に、今年のテーマを考え、2月には先生から講演のご快諾と、ご講演の題目・要旨を頂いておりましたので、私も我が意を得たり、とちょっと誇らしく思いました。

IIRSのセミナーにも、先生のご講演を再度お願いして、これからの可視化技術の動向をさらに考えなくてはならないと、ご講演を拝聴しながら、考えました。

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